新しいラヴェルと、新しいショパン

2周回遅れのクラシック新譜レポート。リンクもたくさん貼っておきました。ちらっと聴いても、この美しさは判るのではないか、と思います;)
平中悠一 2026.02.13
読者限定

論文の手がようやくちょっと空いたので、久々に音楽を聴きながら、本を読んでいます(笑)

小説を書いてる時は、音楽を聴きながら(さらにはお酒も飲みながら・笑)楽しく書いていたのですが、論文は音楽も(お酒も)同時には無理、です(個人の場合です;)

いや、しかし。「趣味は読書と音楽鑑賞なんて、いちばん退屈な人よね」とか思う人がもしいたら、その人は、読書のことも、音楽のことも、何も知らないわけで(笑)

フランスに住んだこともないのに、ワインなんてこんなもんでしょ、とかシャンソンなんてあんなもんでしょ、とかいうような(←住まなければ判らなかった、僕の場合。住まなくても、判る人には判るのでしょうが・笑)

実際読者や音楽鑑賞は、やればやるほど、毎日驚天動地の連続で(笑)こんな面白いことはない、と思えるくらい、発見や考えごとをもたらします;)

「細雪」の詩学』を出したあたりから、ずっとこの博論のいわば落ち葉拾いというか、いいそびれたことを拾い続けており、それがようやくそろそろラップアップかな、という地点に徐々に近づいてきている、という感じで、

その間クラシックの新譜が聴けてなく、まだまだ2024年の新譜を、2周回遅れで聴いておりますが(笑)

ふとこの話題を書いてみようかな、と思ったきっかけはさらに古いアルバムで、

Nathalia Milstein Prokofiev / Ravel

Nathalia Milstein Prokofiev / Ravel

このラヴェル、「クープランの墓」が、本当にすてき。いや、「クープランの墓」なんて、ずーーーっと聴いてきましたが、これがこんなにいい曲だと思ったことはなかったです(笑)

これは“色彩の魔術師”がキャッチフレーズの(違ったかな?)ラヴェル作品の中でも、新古典主義的に、端正に、インテンポで、さーっと弾かれる、とにかく“めくるめくテクニック”とか、あとラヴェル得意の前進性(=みんな知ってるとこでは、ボレロ。あと、たとえば、左手のためのコンチェルト、ね!)、リズミックに聴く者を持っていく、運び去る、みたいな演奏は、たくさんあって、もちろん名演も数々あるんですが。。

これは、ぜんぜん違う。

甘く、ロマンティックに、テンポを揺らし、フラーズや声部、音形の面白さを引き出していきます。

しかも、強奏しない。これもすごいです。

インテンポで端正に前進し、テクニックの冴えとリズムで聴かせる、という演奏から、これがはるかに遠くにあることが判る、と思います。

実はこの前に、ショパンも、新しい(こちら2024年のアルバムです;)録音で、驚いたものがあったんですよね。

Ryan Wang Chopin Préludes - https://amzn.to/4rB1Kjq

どうでしょう。

16歳当時のコンサートで、本人はマイクがオンになっていることを知らなかったそうです。

この演奏も、ミルシュタインのラヴェルと同じような魅力がある、と思います。

つまりテンポ・ルバート、アゴーギクが、恣意的でなく(往年の19世紀的なピアニストのようにでなく;)、違うために違う(かつてのポゴレリチのように)でもなく(笑)

音楽のその場の構造、形態にしたがって、その部分の魅力を十分に表す、しっかりと聴かせるために機能している。

また、強奏しない、というのも同じです。

ミルシュタインもフランス出身、Ryan Wangはカナダらしいですが、2020年のサンソン・フランソワ・コンクールの勝者であり、パリのエコール・ノルマルでも学んだとのことで、

強奏しない、といえばある意味フランスのお家芸というか、

時代設定を読み替えたパトリス・シェロー演出で伝説的なバイロイトの「ニーベルングの指環」、

あの演奏のほうはいまだに僕はいちばん好きな「指輪」の録音ですが、ピエール・ブーレーズ指揮、当初はフランス的な演奏が批判されたことも知られています。その特徴のひとつが、強奏を避ける、というものでした。

エコール・ノルマルは、パリ17区の私立の音楽学校で、ある程度すでに勉強のできあがった、年齢の高い人も入学できるので、日本からの留学生も多く、知っている人も多いのではないか、と思いますが、そもそもアルフレッド・コルトーによって設立された、その意味ではフランス・ピアニズムの伝統を汲む音楽学校、ということができるでしょう。

(フランスの音楽学校は外から見ると結構わかりにくくて、よくいうコンセルヴァトワールというのは、パリ市各区の子どもたちのための音楽教室もコンセルヴァトワールなので・笑

日本人が普通に考えるパリの国立音楽院は、神童か、よほどの音楽性がないかぎりなかなか入れないらしく、僕の知ってるパリに音楽を勉強に来ていた若いアジア人の子たちに、どうしてコンセルヴァトワールに入らなかったの、と訊くと、あそこは自分の年齢/技術では入れない、みたいにいっていたので、そういうものなのかな、と思っていますが...;)

***

公式HPのほうでは、新時代のショパンとして、既に何人か、何枚かのディスクを紹介してきました。このRyan Wang(ライアン・ワン ?)の演奏も、その一角、という気がします。

この演奏で、ふと思い出したのが、特にリシエツキのエテュード作品25。

時代は10年以上さかのぼりますが、こういう、ポリーニやアルゲリッチとは違う、

つまり、メカニックやパッションで圧倒するのではなく、

ポエジー、詩情や弱音、細部の美しさで聴かせる...、

いや、やはり圧倒はされるのですが(笑)

どちらも、思わずため息が出る、でも、そのため息の質が、ぜんぜん違う。。

...どちらもすごいけど、強靭さや正確さで圧倒するのでなく、美しさ、デリケートさに出るため息、といいますか。。(笑)

そういえば、公式HP、このリシエツキに言及したのは、Eric Luを紹介したポスト(2020/8/18)で、古い日付のものなのに、昨年なんか結構見られてるな??と思っていたら。。

Eric Lu、ショパン・コンクールで優勝したんですね。びっくりです。

再挑戦での敗者復活、というのは、まさにLuの母国、アメリカ人の大好きな「物語」。

まさかもう一度ショパン・コンクールに出て、優勝するとは...。いや、おめでとうと心からいいたいです、だいぶ遅きに失しましたが(笑)

今回のミルシュタインやWang(そして、その前のリシエツキ)とはまた少し違いますが、

このイタリアのピアニストの美意識も、やはりアルゲリッチやポリーニと比べれば、新次元。

話しているのを聞いてると(英語で話してるのを聞いただけですが;)あまりインテリっぽい雰囲気はないのですが(笑)

パースペクティヴというか、見通しというか、フレーズの把握の仕方の息が長い、

アルゲリッチでは絶対見通すことのないような(笑)長いスパンでのペース配分が完ぺきにできている、計算されている、という感じで、本当に感嘆するほかない、そういうショパンになっていました。

そういうわけで「新時代のショパン」としては、さらにまた新たな奏者で、ノクチュルヌやバラードなどにも新しいエステティックによる演奏が待たれるところ。。

ここまで長年聴いてきて、同じ曲だし、名演もすでにたくさん聴いてきたはずなのに、まだまだいくらでも発見がある、というのが、やはり音楽を聴くひとつの楽しみ、という気がします。

さて、

こうして絶賛ばかりしていると、やや回し者のようでもありますので(笑)

最後に少し批判的なことも書いておくと、

やはり公式HPで絶賛した「マタイ受難曲」のピション/ピグマリオン。

いまヨーロッパで最もチケットの取りにくい団体のひとつ、との触れ込みですが(笑)

その後の新譜を聴いていると、うーん、これどうなんだろうな...という気がしてきました。

結局これも、**ショート動画時代**的、といってしまうと、なんですがw

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