リベラルのモラルはどこにあるのか。

キター! トランプ検閲。どうする、リベラル。どうする、どうする??
平中悠一 2025.09.25
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トランプ政権を支えた極右のイデオローグの射殺に伴い、国家的追悼式典が行われたのを機に、これまで続いた法律事務所報道機関大学への圧力(というか、経済的な脅迫。...「相互関税」と同じやり方ですね;)に加え、

言論に対する直接的な攻撃、つまり、弾圧が始まりましたね。。

この殺害事件へのトランプ派の対応について皮肉っぽく言及した(ほんとにその程度です)コメディアンを出演停止にさせ、さらに米TV3大ネットワークに放送免許取り上げ、という脅しをかけることで、自主規制=自己検閲を行わせようとしています。

(...まぁ、このあたりはどこかの国でもあったような話ですが。。

 高市総務大臣(当時)による「電波停止」発言問題は2016年でした。タイムリーですね(笑)

 なお、「自己検閲」は最悪の検閲、とは、仏ファシスト党のル・ペン(娘)の発した名言です;)

さらにトランプは司法による政敵の断罪も試みています。こうなると、マッカーシーの赤狩りという1950年代アメリカの黒歴史の再来か...という観すらあります。

アメリカはいま、政権内部だけでなく、議会も司法もまったくトランプに抑制をかける機能を果たしておらず、もし来年の中間選挙で与党が勝てば、

トランプ続投(つまり第3期目)の危険性も現実味を帯びてきます。そうなると、アメリカはほぼほぼ独裁国家の仲間入り、ロシアや中国、北朝鮮と同じ政治体制になってしまう。

...というと、早稲田の中林先生など、「いやいやいや、連続としては2期目ですから、独裁とまではいえないと思います」などとおっしゃりながら、全国放送のギャラを夜な夜な獲得されていくのかもしれません。。率直にいって、羨ましいかぎりです(笑)

さらにワースト・ケース・シナリオを続けると、アメリカでは、そうなると、ほんとに暴動が起こり始める危険性がある。つまり内戦に近い状態になる。

...いやぁ、もしオバマ時代にこの文章を書いたら、ディストピアSFかノストラダムスの大予言並みのとんでも文書、だったでしょう。まさかこういうことを考える日が来るとはね。。

これは「対岸の火事」ではない。

でも外国から見れば、「他山の石」にすることはできる。

まず、見識のない人を(また、政治勢力も)、人気で、面白いからとか、何かしてくれて変わりそうだから(どう変わるかは判らなけど...)と思って、政治の中枢に据えてはいけない、ということです。

そして、対話、議論が不可能なかたちの分裂が生まれると、もう民主主義は機能しないということ。ソーシャルメディア時代、その分裂、反感、対立感情を煽って政治家は選挙に勝とうとするが、この分裂が確かなものに(!)なったらその選挙が拠って立つ、民主主義自体が破壊されることになる、という、

このことが判っただけでも、そしてこのアメリカの状況を念頭に、分裂を賢く回避できれば、西側諸国の盟主であるアメリカの自滅・倒壊の影響は免れないとしても、比較においてより穏やかで、民主的な国としてこれからも存続していく道も選択可能なのではないでしょうか。

***

分裂や差別、ヘイトスピーチといえば、極右の問題がまず思い浮かびますが、リベラル側にも同じ分裂を生み出す問題は、ある。

リベラルはwokeな(目覚めた)人たちで、意識が高く、人を見下している、という批判もあるし、

また「キャンセル・カルチャー」と呼ばれた状況も、そのひとつでしょう。

今回の極右イデオローグ殺害事件を、トランプはラジカルな左翼のせいだと非難しています。

アメリカでは共産主義は禁止ですから(笑)政治勢力として、本当の左翼は存在しません。中道と、右派しかない。アメリカは自由主義の国で、リベラルは中道、ど真ん中のはずなのですが。。左翼がいないために、それが「左寄り」になってしまう(笑)

...もう少し厳密にいうと、共産主義〜資本主義の左右は左が不在(ほぼ、実質)、

自由主義〜保守主義では自由主義が左、ということでしょうか。

だから、トランプが左翼と呼んでいるのは、結局リベラルのことになるのですが。。

そもそも、自分と異なる主張を持つ人を殺害したら、それは「リベラル」ではありません(笑)

それは過激派や、テロリスト、ということになります。

迫害したり、イジメても、その人は、もはや定義的にリベラルではない。

リベラルというのは自由主義で、当然人の自由も尊重します。「主義」というのは、それを感情や情緒以上に優先する、という立場です。当然人の自由を侵害することも最大限に回避しようとします。その結果、リベラルは争いを好まない。

本質的に、リベラルは、ケンカは弱いはずです。相手の自由を認めないと、自分の自由も認められないわけですから、自分と異なる意見も聞くことになります。でないと、自分の意見が、たとえ人と違っても聞いてもらえるべきである、と考える根拠もなくなります。

間違ってると思っても、人にいいたいことを*いわせない*のではなく、あくまでも議論で対抗する。

論破、ということばが一時期流行ったらしいですが、それが相手を黙らせるという意味なら、そんな論破はすべきではない。

それこそ、議論とは関係のないところで、人を黙らせようとする——

昭和のお父さんたちは、大体、これをやりましたから(あと、学校の先生も!全部じゃなけど;)、それがどれほどうんざりするものか、ある世代から上なら、みんな知ってると思うのですが(笑)

議論の本質ではないところ、たとえば、

失礼なことをいうな、とか、判りもしないのにいうな、とか、甘えたことをいうな、とか。文句があるヤツは出て行け、とか。

そんなことをいって自分はどうなんだ、とか、そういうことをいってるから、こういうことになってるんだよ(と、ぜんぜん別件を持ち出すw)、

だからそれ、関係ないでしょ、という以前に、それが相手の議論と正対せず、要するに、何でもいいから黙らせようとする論法で、問題はそこにあるわけです。

こういう、要するに不毛な口論を行うことを、リベラルは好まないはずです。

それは議論ではなく、露骨な言論の封殺だからです。

***

リベラルが極右を民主主義の敵、悪と決めつけ、ファシスト呼ばわりするから、こういう過激派やテロリスト、そして今回の暗殺者を生んだのだ、だからこの殺人の責任はリベラルにある、というトランプの非難は、

殺人を犯したり性犯罪を起こす人がいるのは有害なゲームやポルノを見たからで、ゲームやポルノの製作者に責任がある、というのとおなじ理屈です。...つまり、一理はあるかもしれませんが、無理もかなりある(笑)

リベラルのコアの人たちは、暴力に訴えてはいけない、という一線は必ず守っているはずです。

...それをいうなら、殺人ゲームが面白いですよ、といって販売している人も、現実に人間を殺せ、といってるわけではないぞ、という話にもなるかもしれませんが。。

しかし、特に日本のリベラルは、実際の暴力だけでなく、言論による暴力、誹謗中傷や、罵詈雑言も、認めないのではないでしょうか。

というのは、今回の極右イデオローグ殺害報道を見ていて(例によってCNNで;)実ははじめて気づいたのですが、アメリカではヘイトスピーチも言論の自由に入っているようです。

ヘイトスピーチという名のもとに、個人の自由な言論が制限されることを恐れる。あるいはまた、アメリカらしい楽観主義で、悪い言論はいずれ良い言論が淘汰する、という、いわば「神の見えざる手」みたいなものへの信仰心を、ここにも感じるところですが。。

トランプは、銃を持った悪者に勝てるのは銃を持った良い者だけである、といっていました。しかしこのロジックがプラクティカルに破綻していることは、アメリカの銃問題を見れば明らかです(笑)

銃の乱射事件があるたびに、不安になった人が銃を買うため銃の売上が伸びる。乱射事件がある度、銃産業は儲かり、銃の絶対数が増えるほど、銃による死傷の危険性も高まります。

(これは核抑止力の問題でも同じことがいえます。諸国が不安から逃れようと核軍備を進めると、どこかの不見識な国が戦術核を使ってしまえば、その瞬間、それまでに増えた核兵器の量が多ければ多いほど、危険はより大きく近くなります)

この点に関していえば、そんなアメリカのリベラルより、日本のリベラルのほうがよりよいのではないか。

つまり、リベラルには暴力を認めない、という一線がある、といいました。

そしてリベラルは、本質的に争いを好まない、ケンカは嫌いである、とも。

しかし、そのリベラルにも、逆に、この一線だけは守らなければならない、譲ることができない、という、リベラルとしての、限度もある。

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